蛍光
(Fluorescence)

[English version]

蛍光色素が光を吸収すると、その電子が励起され、基底状態(図8AのS0)から電子励起一重項状態(S2, excited electronic singlet state)①と呼ばれる最大エネルギーレベルに遷移します。 この遷移に必要なエネルギーの量は、蛍光色素ごとに異なります。 この励起状態の寿命は蛍光色素に依存し、通常1~10ナノ秒持続します。 次いで、蛍光色素は構造変化を起こし、電子が電子緩和一重項状態(S1, electronic singlet state)と呼ばれる、より安定なエネルギーレベルに低下し、吸収したエネルギーの一部は熱として放出されます②。 その後、電子は残りのエネルギー(EEmission)を蛍光③として放出して、基底状態(S0)に戻ります。 このサイクルは蛍光色素の分子一つ当たり数千回繰り返すことが可能あり、結果としてシグナルを増幅することができます。また、励起極大と蛍光極大の波長の差はストークスシフトと呼ばれます(図8B)。

蛍光は、励起光よりも低いエネルギーを持ちます。 したがって、どのような蛍光色素であってもその蛍光波長は、励起波長よりも長波長となり、そのため異なる色となります。これらの波長によって蛍光測定における蛍光色素の有用性が決まります。蛍光測定では蛍光に対する励起光の漏れ込みをできるだけ抑制する必要がありますが、ストークスシフトの大きな蛍光色素ほど漏れ込みを抑制しやすくなります。

励起光の波長は、とても重要です。 例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)は、400~530nmの光を吸収しますが、最も効率的に吸収するのは波長のピークまたは最大吸収である490nmです。 より多くの光子が吸収されるほど、蛍光がより強くなるので、吸収の最大値で蛍光色素を励起することが望まれます。 最大の吸収および蛍光の波長は、極大吸収波長(maximal absorbance wavelengths)および極大蛍光波長(maximal emission wavelengths)と呼ばれます。

蛍光色素の最大吸光波長により、どのレーザー光源を励起に使用するのが最適であるかを判断します。 FITCの場合、その最大吸光度は青色スペクトル内にあります。それのため、一般的にFITCの励起には490nmのFITCの吸光度ピークに近い青色の488nmレーザーが使用されます。 FITCは475~650nmの蛍光を発し、緑色スペクトル内の525nmにピークがあります。 どのようにフローサイトメーターをセットアップするかによって、蛍光色素がどのように検出されるかが決まります。 フィルターを使用してチャネルA(図9)を介して、極大蛍光波長以外の光をすべてブロックした場合、FITCは緑色に見えます。

機器の設定で見え方が決まる(Setup determines perception)

FITC蛍光がチャネルB(図9)でだけ検出された場合、強度がはるかに弱いオレンジ色として観察されます。 このように、発せられた光をどのように測定するかにより、蛍光色素がどのような色として観察されるかが最終的に決まります。 励起光と蛍光の色は異なるので、光学フィルターを使用して色を分離することができます。